廻るピッツァの星 -A Story of Seven Seeds-

天動説が公認されている異世界を舞台にした、オリジナル小説を綴るブログです。

序:鉄籠のタルマ 09/16 『ルドニア研究所』



○ダドック市・市街

マゼルとタリムとゼイラ、それにポー博士の四人は、マイロン市から三日をかけて馬車に揺られ、ダドック市へとやってきました。
ダドック市はマルゲリタの政治、経済、信仰の中核を担う、マイロンなどとは比べ物にならないほど大きな都市です。
マルゲリタ王の棲む、立派なお城もあります。

マゼルとタリムとゼイラの三人は、あの日ルードン大博士と面会をした後、久しぶりに帰宅を許されました。
そして各々の家で一泊だけすると、もう次の日の朝早くには、市長に用意されたダドック行きの馬車に乗り込んでいたのでした。
(ミゼルだけはもう一晩、マイロン中央会議所に泊まらされました。ミゼルがお家に帰ったのはその次の日となり、従って兄のマゼルとは顔を合わしていません)
そしてその三人には、あのポー博士が付き添い人として同行していたのでした。

マゼルとタリムとゼイラの三人は、ダドックを訪れるのは初めてです。
ダドックの市街に入ると、三人はこれまで見たこともないほど多くの人々が行きかう石畳の通りや、高い高い建物、それに大きな商店、市場などに目を奪われました。
街に溢れる活気が、マイロンのそれとはまるで違っています。
タリムなど大きな書店の前を馬車が通ると、幌から身を乗り出して覗き込もうとしていました。

「やっぱりダドックはすごいなぁ」
「あ!あれ、王様直属の護衛兵だよ、カッコいい!」
「本当だ、立派だねぇ。おーい!」
「キョロキョロするな、田舎者め」

はしゃぐマゼルとゼイラを、ポー博士が咎めました。

「……だって僕ら、田舎から来たんだもの」
「ポー博士はダドックに来たことは?」
「学生の頃はダドックの学校で学んだものさ。もう十年以上も前の話だがな」

タリムの問いに、この旅で初めて、ポー博士は自分のことを口にしました。
ポー博士は相変わらず瘠せてギョロギョロした形相をしていて、道中、子供達とは殆ど口をきくことはありませんでした。

「……ただ私も、ルードン大博士の研究所へ行くのは初めてだがな」

ポー博士は、夜のように暗い陰をその顔に落としました。
研究職にある者にとって、かのルードン大博士の研究所へ赴く行くということは、この上なく名誉なことなのです。
しかし、この懐疑主義的な博士にとって、それは大した意味をなさないのでした。
ポー博士の人生の願いとは、何も問題ごとのない平穏な日々を過ごし、それを死ぬまで静かに持続させる事なのでした。
生きる上での刺激などは一切求めず、出世願望や名誉欲とも全く無縁の男なのです。
従って、市長から仰せつかったこの三人の付き添い役も、ポー博士にとってみれば迷惑以外の何事でもないのでした。

「はぁ……」

ポー博士の淀んだ溜息よそに、三人の子供はダドックの街並みに興奮しきりです。
しかし、三人とポー博士は、何もダドックに観光をしにきたわけではありません。
馬車はそのまま賑やかな市街地を抜け、じょじょに寂しい森の中へと入っていきました。

「それにしても……」

幌の外から覗く木叢を見て、マゼルは思い出したように静かに呟きました。

「僕らは一体、何をやらされるのだろうねぇ」

○ダドック市・ルドニア研究所

ダドック郊外の深い森の奥に、ルードン大博士の研究施設“ルドニア研究所”はありました。
よほど厳重に警備されているのか、城壁のような大きな石壁がグルッと建物を取り囲むように立ち並び、外から中の様子は全く伺い知れません。

馬車は警備兵のいる正面の大きな木製の扉の前に着きました。
馬車の乗り手が警備兵に何やら書状を渡し、一つ二つ言葉を交わすと、閉ざされた扉は開け放たれ、馬車はいよいよ研究所の敷地内へと入っていきました。

 ×      ×      ×

ルドニア研究所は古い煉瓦造りの、これもまるでお城のように立派な建物でした。
四人は馬車を降りると、白衣を着た研究所の人に、その建物内へといざなわれました。
研究所の中はとても広く、図書館のように整然と本棚が立ち並ぶ部屋や、多くの植物や鉱物の標本が並ぶ部屋、また、使い道のよく分からない実験器具や薬瓶がガタガタと詰まれた部屋などが幾つもあったのでした。
ある部屋などでは、累々たる動物の剥製が所狭しと並べられており、やはりミゼルは来なくて良かったとマゼルは思いました。

冷たい石壁に包まれた螺旋状の階段を上り、ルードン大博士のいる最上階の部屋の前まで連れてこられると、四人は身だしなみを整えるようにと告げられました。
四人はしゃんと背筋の伸ばし、ポー博士は洋服の皺を伸ばしたり、髪を撫でたりしました。

「用意はよろしいですね、では」

研究所の人は、重厚な漆黒の木製ドアをコンコンとノックしました。

「うむ」

聞き覚えのある、このドアに負けないほどの重厚な声が、扉の向こうで鳴りました。
その声は何度聞いても、子供達の胸をドクンと波打たせるのでした。

【つづく】

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/07/04(金) 00:29:40|
  2. 序:鉄籠のタルマ
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