廻るピッツァの星 -A Story of Seven Seeds-

天動説が公認されている異世界を舞台にした、オリジナル小説を綴るブログです。

序:鉄籠のタルマ 06/16 『ミゼルの過去』




マゼルとミゼル、タリム、ゼイラの四人は別の部屋に連れて行かれ、外から鍵を掛けられてしまいました。
小さな窓しかないその薄暗い部屋は物置として使われているようで、大きなソファーだとか椅子だとかテーブルだとかが雑然と置いてあり、なんだかとても埃っぽいところなのでした。

ミゼルはさっきまで何時間も泣き喚き、部屋の扉を蹴ったり叩いたりしていましたが、ついには力が尽き果て、ソファーの上でスウスウと糸のような寝息を立てて眠ってしまいました。
涙の跡が薄く滲むミゼルの寝顔を眺め、マゼルはある出来事のことを思い出していました。

もう何年前のことだったでしょう、マゼルとミゼルの近所の家では、庭先で鶏を何羽も放し飼いにしておりました。
そのうちの一羽をミゼルは特に気に入っており、“ラッタ”と勝手に名付けては、駆けっこをしたり抱っこをしたりして、一緒によく遊んでいたのでした。
ところがある日、ミゼルがいつものようにラッタの好物の菜っ葉を持って会いに行くと、そこにもうラッタの姿はありませんでした。
そのお家の人に所在を尋ねても、「ラッタなんぞ知らん」というだけです。
ミゼルは自分の足でいけるだけ、そこいら中を探しまわりましたが、ラッタはどうにも行方知れずなのでした。

ミゼルはそれからしばらく、すっかりしょげて暮らしていたのですが、その出来事は突然露顕しました。
ラッタが居なくなった次の日の晩、マゼルとミゼルの家の食卓に並んだメインの皿が、実はおすそ分けで貰ったラッタの肉だったのでした。
ミゼルはそれを知るやいなや、半狂乱の気違いのようになりました。
そして何日も何日も、メソメソメソメソ泣き続けたのでした。

それ以来、ミゼルは生き物の体を食うのをパタリとやめました。
お母さんが一生懸命にこさえた料理でも何でも、そこに動物や魚が少しでも混じっているようなら、それを食すのを一切拒否したのです。
マゼルとミゼルのお父さんは漁師です。
魚を捕るのが仕事のお父さんは、そんなミゼルに内心穏やかではありません。
お魚を食べる食べないで、お父さんとミゼルの間に思い出すのも嫌なくらい散々の衝突がありました。
お父さんが罰としてご飯を一切抜きにしても、ミゼルは何日もそれに絶え、しまいには寝込んで学校を休んでしまうほどなのでした。
そして結局、折れたのはお父さんの方でした。
それからというもの、家での食事はいつもミゼルだけが肉・魚のない別の献立となったのでした。

一度ミゼルが酷い病気をした時、お父さんとお母さんが内緒で、魚の肝の薬をミゼルに飲ませたことがありました。
ミゼルは臭いですぐそれに気づき、この時もたいそう騒いだものでした。

「他の生き物の命をとってまで、私は元気になりたくない」

ミゼルは他の誰よりも繊細で、澄んだ心の持ち主なのでした。
せっかく仲良くなった不思議な生き物・タルマが殺されてしまうのは、マゼルもとても悲しいことです。
でもミゼルはそれよりももっともっと、悲しい想いをしているのだとマゼルは分かっているのでした。

そしてミゼルほどでなくとも、「どうにかしてタルマを助けてあげたい」という想いは、一緒に閉じ込められているマゼルもタリムもゼイラも同じなのでした。
今頃タルマはどんな目に遭っているのでしょう、何か酷いことをされているのではないでしょうか。
そう考えるだけで、子供らの心は悲しく明滅するのでした。

 ×      ×      ×

四人があの部屋に閉じ込められてから、三日目の朝を迎えました。
その間、ポー博士と市長をはじめ、大人達はみな大変困っておりました。
タルマを殺してしまおうと決めてはみたものの、その手立てがことごとくうまくいかないのです。

まず、力自慢の兵士が子供の背丈程もあるような大きなカナヅチで、床に置いたタルマを思い切り打ちつけました。
何度も何度もタルマに大カナヅチを振り下ろしたのですが、「ガキン!」と大きな金属音がするだけで、丸まったタルマの殻は一向にへこむ気配がありません。
また、鋭い刃のノコギリを用意して、それでエイヤっと引いてみたりもしました。
しかし、これもノコギリの刃の方が欠けるだけで、タルマの体はやはりびくともしません。
それから鉄の炉に入れて燃やしてみたり、火薬を仕掛けて爆破させてみたり、強い薬に一晩漬けて溶かそうとしたりもしました。
しかしどれもこれも役には立たず、終えてみるとタルマは何事もなかったかのようにまたキュルキュルと手足を伸ばして元気に動き回るのでした。

タルマを覆う白い殻は想像以上に強固なもので、大人達がどれだけ知恵を絞ってみても、結局傷一つつけることは出来ませんでした。

「……化け物だ」

市長とポー博士はつぶやきました。
“決して殺せない生き物”、そんなものが本当にこの世にいるのでしょうか。
それともやはり、こやつはマルゲリタの常識の範疇を超えた、異界よりの来訪者なのでしょうか。
この有様を見るかぎり、どうにもそう認めざるをえない気がしてきます。

大人達の万策尽き果てたその時、市長やポー博士が最も恐れていた事態が起きてしまいました。
ルードン大博士が、マイロンに再訪したのでした。

【つづく】

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  1. 2008/05/30(金) 01:22:53|
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